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東京地方裁判所 平成2年(ソ)2号 決定 1990年6月25日

抗告人 たくぎん抵当証券株式会社

右代表者代表取締役 村瀬徹

右代理人弁護士 片岡義広

小林明彦

小宮山澄枝

櫻井英喜

相手方 有限会社朝日冷蔵

右代表者代表取締役 岡本美香

主文

一  原決定を取り消す。

二  本件競売手続停止の申立てを却下する。

三  申立費用は、当審及び原審とも相手方の負担とする。

理由

一  申立ての趣旨及び理由

別紙抗告の趣旨及び理由のとおり。

二  当裁判所の判断

本件記録及び東京簡易裁判所平成二年(ノ)第一九五号抵当権抹消登記手続調停申立事件の記録によれば、次の事実を一応認めることができる。

1  抗告人は、昭和六一年三月一三日、朝日興産株式会社(以下「朝日興産」という。)に対し、二億八〇〇〇万円を利息年六・二パーセント、遅延損害金一八パーセント、一億円を利息年八パーセント、遅延損害金一八パーセント、朝日興産が銀行取引停止処分を受けたときは、期限の利益を失うとの約定でそれぞれ貸付け、朝日興産の子会社である相手方会社は、同月一九日、その所有する別紙目録記載一の土地及び二の建物(以下これらを「本件不動産」といい、また同目録記載二の建物を「本件建物」という。)についてそれぞれ抵当権を設定した。朝日興産は、昭和六二年七月四日、銀行取引停止処分を受けたため、同日、右の各貸金債務について期限の利益を喪失した。

2  抗告人は、昭和六二年一二月七日、本件不動産について抵当権の実行としての競売を申し立て(その後、昭和六三年一〇月六日に、取り下げた。)、昭和六三年一二月、本件建物について占有移転禁止の仮処分決定を得て執行した。さらに、抗告人は、平成元年六月、本件不動産について再び競売の申立てをし(以下この競売を「本件競売」という。)、同月二八日、競売開始決定がなされた。また名古屋地方裁判所執行官は、同年七月、抗告人の申し出に基づき、前記占有移転禁止仮処分に係る本件建物の状況について点検をしたが、相手方会社の代表者岡本美香は物産コツクス株式会社の代表取締役であるところ、同年四月ころから、本件建物の三階の部屋の入口に、「物産コツクス株式会社事務所」という看板が掲出されていることが判明した。

3  本件競売については、期間入札が行なわれることになり、入札期間が平成二年五月二日から九日まで、開札期日が同年五月一六日と定められ、同年三月一二日ころ、その旨が関係人に通知された。朝日興産は、そのころになって抗告人に対して、債務の残高について照会をしたところ、抗告人は、同年三月三〇日ころ、朝日興産に対し、貸金残が三億六七五〇万円、利息・遅延損害金等を含めた債務残高合計が五億六〇一五万四〇七一円(同日現在における貸金残及び利息・遅延損害金の合計は五億五五三八万六一九〇円)である旨を回答した。朝日興産は、同年四月、抗告人に対し、抗告人が本件競売の申立てを取り下げ及び本件不動産に対する前記抵当権設定登記の抹消登記をするのと引換えに、三億八七五〇万円(元本に利息分として二〇〇〇万円を付加したもの)の弁済をする旨の申し出をしたが、抗告人は、これを拒絶した。

4  その後、抗告人は、平成二年五月一日ころ、朝日興産に対し、朝日興産が同年五月一一日までに四億二〇〇〇万円以上を弁済すれば、本件競売の申立てを取り下げ、前記抵当権設定登記も抹消してもよい旨の提案を行なつたが、朝日興産は、右提案を受諾しなかつた。そうして、相手方は、同年五月九日、抗告人を相手取り、東京簡易裁判所に、抗告人が相手方から三億八七五〇万円(元金三億六七五〇万円と利息分二〇〇〇万円)の支払いを受けるのと引換えに前記抵当権設定登記の抹消登記手続をすることを求める調停を申し立て、同時に、本件競売手続の停止を求める申立てをした。

右認定の事実によれば、相手方は、本件競売申立てから八か月位が経過し、入札期間等の通知を受ける段階になつてから、抗告人との間で前記貸金債務に対する弁済についての交渉を始めたものである、また占有移転禁止仮処分が執行されている本件建物について、仮処分命令に違反して占有名義を変更した疑いがある、そうして、本件競売に係る被担保債務は、貸金残三億六七五〇万円とそれに対する利息・遅延損害金とで五億五〇〇〇万円を超えるものであるにもかかわらず、これを大きく下回る貸金残三億六七五〇万円に利息分として僅か二〇〇〇万円を付加した三億八七五〇万円を弁済するのと引換えに、抵当権設定登記を抹消することを求めているものであるから、誠実に責任を履行する意思がある物上保証人であるとはいえず、本件競売手続を停止せずに進行させることが相手方にとつて酷なことになるということはできない。

相手方は、抗告人が本件不動産の任意売却の仲介・斡旋を不動産業者に依頼し、任意売却によつて抗告人の正味の受取額が貸金元本残の三億六七五〇万円を超えるのであれば、右金員の支払いを受けるのと引換えに、前記抵当権設定登記の抹消に応ずることを約していたことを理由に、右元本残に利息分として二〇〇〇万円を付加した金額を弁済するという提案をしているもののようである。しかしながら、第三者が抵当不動産を買い受けて、抵当権の抹消を受けるために抵当債務を弁済する場合と、物上保証人が抵当権の抹消を受けるために被担保債務の弁済をする場合とは一律に論ずることができないことは自明であるから、抗告人が不動産業者に前記のような依頼をした事実があつたとしても、前段の結論を動かすには足りないというべきである。

三  してみると、本件調停事件は、民事調停規則六条一項にいう「紛争の実情により事件を調停によつて解決することが相当である場合」にあたるとは認められないから、本件競売手続停止の申立ては却下すべきものであるのに、これを許容した原決定は失当であり、その取消を求める本件抗告は理由がある。

(裁判長裁判官 菅原晴郎 裁判官 橋本和夫 生島恭子)

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